糸の辞典

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撚糸の回数〈強いと甘い〉

撚糸回数が多いことを「強い」、少ないことを「甘い」と言いますが、一体何回からが強くて、何回までが甘いのでしょう?

その正解は「回数だけでは判断できない」です。

なぜならそれは、「糸の太さに相対的」に、「用途の適性に相対的」に判断されるものだからです。


まず、「糸の太さに相対的に判断される」についての説明です。

仮に糸の断面が円形だったとして、太いほど直径が長くなる = 円周が長くなりますから、同じ撚糸1回(1回転)でも、実際には太い糸の方が大きく(長く)ねじられていることになります。

直径1mmと直径2mmの糸があったとして、同じ1回転でも外周としての動きは2倍も違う。そのような考え方です。


これでご理解いただけるでしょうか?

私はこの説明を受けた時、まったくピンと来ませんでした。


別の説明に変えます。

多くねじられている(撚糸回数が多い)場合、糸にはより多くの撚り目が現れます。

下をご覧ください。同じ太さの二つの糸に、左側は撚り目を20本(20回)、右側は撚りが撚り目を5本入れました。この二つを比較した時には、当然左側の方が「強い」となります。


次は、太い糸と細い糸に同じ5本の撚り目(5回の撚り)を入れました。


同じ5本でも太さが違うと、撚り目の角度が違うことがわかります。左の太い方が水平に近く、右の細い方は垂直に近くなっています。

前回、実際の糸の写真をお見せして「撚りが甘ければ撚り目が垂直に近く、強くなると撚り目が水平方向に傾く」と説明しました。

つまり、このイラストの二つの糸は、同じ5回でありながら、撚り目が水平に傾いている太いの糸の方が撚りが強く、垂直に近い細い糸の方が撚りが甘い、という状態になっています。

そして、下をご覧ください。


今度は撚り目の傾斜を同じ角度に合わせてみました。すると太い方の糸には撚り目が2本と少ししか入りません。

つまり、この二つの糸は、左側の太い糸の約2回と、右側の細い糸の5回が、撚りの強さとしては同等であるということです。

これが、撚りの「強い」と「甘い」は、「糸の太さに相対的に変わる」を表す図解です。


実は、今回は撚り目の角度で表した「撚りの強さ」はちゃんと数値化できます。

「撚糸係数」というものです。

【 撚糸係数 = 撚糸回数 × √太さ 】

これに当てはめると、例えば100dの糸に100T/Mの撚りを入れた糸の撚糸係数は、100回 × √100dで、1000になります。

これを知っていると、「100dの100T/Mと同じ撚りの強さで良いけれど、糸の太さを150dにしたい」という時、何回の撚りを入れれば同じ強さになるのかを求めることができます。

1000 = 撚糸回数 × √150

1000 = 撚糸回数 × 12.25

撚糸回数 = 1000 ÷ 12.25

撚糸回数 = 81.63

100dに100T/Mと同じ撚りの強さを、150dで再現したければ81.63T/M(およそ80T/M)の撚りを入れれば良い。

これが答えです。


「用途の適性に相対的に判断される」は単純です。

前回の「メリヤス用」と「織物用」のように、用途が変われば同じ糸でも求められる撚りの強さが変わるというだけです。

例えば、当社ではレーヨンの120d/2を販売しておりますが、主に使われる用途は工業用ミシン刺繍とエンブロイダリーレース(刺繍レース)です。

それぞれの身近な使用例としては、工業用ミシン刺繍はポロシャツの胸元に刺繍されているロゴ、エンブロイダリーレースは女性用ランジェリーに使われる花柄が刺繍されているレース、などです。

この二つは同じ刺繍の名が付きながらも、糸の適性が異なります。

工業用ミシン刺繍の場合、きれいに直線(輪郭)が表現できることと同時に、製造中にかなりの高速で糸が引っ張られるため、滑りが良くて切れにくい糸が求められますので、撚糸回数を強くします。

(撚糸が強くなると、糸の断面が丸くなり接地面積が減って滑りが良くなります。また糸の強度も増します)

かたやエンブロイダリーレースでは、多くの場合は美しい光沢が求められ、その機械も工業用ミシンよりはスピードが遅くて糸を引っ張る力が弱いので、撚りが甘くても支障がありません。

(撚糸が強くなるほど、元々の素材が持つ光沢は失われます)

そんな理由から、当社ではミシン刺繍用にS600/550T/Mと、S430/Z380T/Mの両方を用意して販売しておりますが、前者のS600/550T/Mは工業用ミシン刺繍では「普通撚り」、エンブロイダリーレースでは「強撚」ということになります。


今回で通常の撚糸についての解説は終了です。