糸の辞典

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撚糸の回数〈単位と表記〉

今回は、撚糸回数の単位と表記についてです。

撚糸回数は、1m当たりの回数で表す場合と、1インチ当たりの回数で表す場合があります。

以前「番手(糸の太さ)」で説明しましたが、番手にはメートル法が採用されているものと、ポンド・ヤード法が採用されているものがあり、基本的には撚糸回数の単位もそれに倣います。

メートル法を採用している番手はデシテックス、デニール、毛番手。ですから、それらの番手を使用する長繊維糸やウールなどは撚糸回数も1m当たりで数えます。

一方、ポンド・ヤード法を採用しているのは綿番手、麻番手。よって、それらの番手を使用する綿糸や麻糸の場合には撚糸回数は1インチ当たりで数えるのが本来です(ヤードでもフィートでもなく、インチです)。


その表記ですが、1m当たりの場合には回数の数字の後に「T/M(Twist per Meter)」を付けます。加えてほとんど場合には、撚糸回数の前に撚糸方向も付記しますので、例えばS方向に1m当たり1000回の撚りを入れた場合には、「S 1000T/M」と表記します。

諸糸の場合には下撚りと上撚りの両方の撚糸回数を表記するべきで、その場合には「/」を間に挟み、前に下撚り、後ろに上撚りを表記します。

例えば、下撚りが「S 600T/M」で上撚りが「Z 550T/M」の双糸があったとしたら、「S 600 / Z 550T/M」となります。


では、1インチ当たりの場合ですが、前述に倣えば「T/IN」ということになりますが、実際にはあまり見かけません。

と言うより、短繊維糸全般に言えることですが、我々専業者が目にする素材リストにさえ、撚糸回数が書かれていることがほとんどありません。

短繊維糸の場合、使用用途ごとに「標準的」と周知されている撚糸回数があるため、撚糸の程度を回数として語ることが少なく、「メリヤス用(ニット用)」や「織物用」など推奨用途が撚糸回数の程度を表しています。

この場合、「メリヤス用」は膨らみのある柔らかい糸が好まれるので「撚糸回数が甘い」、「織物用」は製織中の張力や摩擦で糸が切れない(抜けない)ように「撚糸回数が比較的強い」と解釈します。

これはスーパーなどで薄切りのお肉を買う時、肉の厚さが何mmかは書かれておらず、「すき焼き用」とか「しゃぶしゃぶ用」とか書かれているのと同じです。すき焼きにしゃぶしゃぶ用のお肉を使ったとしても、「向いていない」だけで、必ずしも「使えない」あるいは「使ってはいけない」わけではありません。


いくら撚糸回数が書かれていなくても、訊ねれば答えは返ってきます。

そうした時でも、私の経験では「T/IN」と書かれていたことはほとんどありません。

単に「回」とだけ、例えば1インチ当たりの撚糸回数が10回でしたら、そのまま「10回」と書かれています。「書かなくても1mのはずがない。1インチ(2.54cm)当たりに決まってる」という感覚です。

加えて撚糸の方向についても、「撚糸の方向」で説明しました通り、紡績工程で入れる撚糸の方向はZですから、「書かなくてもZに決まってる」ということでわざわざ書かれていることはありません。


余談を挟みます。

先程「メリヤス用」と書きましたが、「メリヤス」とはカッコ書きしたように「ニット」のことです。

「メリヤス」は当て字で「莫大小」と書きます。

「莫」という字は「無い」という意味を持ちますから「ニットは伸び縮みするから大小が無い」という解説が一般的ですが、私にはどうもしっくり来ません。

それよりも「莫大」という言葉と同じく、「莫」を「限りなく」と捉え、「ありえないくらい大きくなったり、小さくなったりする」の方が、それまで織物しか知らず、初めてメリヤスに出会った大昔の人々の感動が表れると思います。


これまで私は何の説明もせずに撚糸の程度について、「強い」や「甘い」という言葉を使っておりました。

撚糸回数が多いことを「多い」とは言わずに「強い」、撚糸回数が少ないことを「少ない」とは言わずに「甘い」と言います。

撚糸回数が多い糸を「強撚(キョウネン)」と呼び、少ない糸を「甘撚り(あまより)」と呼ぶのが一般的です。なぜか一対なのに音訓が揃っておらず、「強撚り(つよより)」と呼ぶこともなければ、「甘撚(カンネン)」と呼ぶこともありません。

ちなみに、強くも甘くもない場合は、特別な言葉もなく、あえて言うなら「普通撚り」です。


撚りが強い糸と甘い糸を比較した写真を載せておきます。



左側が「撚りの強い糸」、右側が「撚りの甘い糸」です。

こうして3色を撚り合わせると一目瞭然で、撚りが強ければ撚り目が水平に近く(撚り目の傾きが寝ている状態)、甘くなると撚り目が垂直に近く(撚り目の傾きが立っている状態)なります。


では、どのくらいの撚り回数が「強く」て、どのくらいの撚り回数が「甘い」のでしょう?

それは次回で解説しています。