糸の辞典

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撚糸の種類

撚糸は大きく分けて二種類あります。

「片撚り(かたより)」と「諸撚り(もろより)」です。

片撚りは単純に一つの糸をSかZ、いずれかの方向に撚っただけのもの。

諸撚りは2本以上の糸を合わせて撚るのですが、まずは1本それぞれに撚り(下撚り)を入れてから、それらを合わせながら更に撚り(上撚り)を入れたものです。

上の説明で片撚りを「1本の糸」とせず「一つの糸」と書いたのは、2本以上でも片撚りはあるからです。2本以上の糸をただ揃えて(束ねて)から、それらを一緒に撚れば、1本それぞれには撚りは入っておりませんので、それは片撚りになります。

1本の糸を片撚りした糸、2本の糸を片撚りした糸、2本の糸を諸撚りした糸(双糸)をイラストにしたので下をご覧ください。




このような撚糸のそれぞれの呼び方ですが、同じ撚り方を表す呼び方が複数ございます。


①1本の糸を片撚りした場合の呼び方

片(かた)

片撚り(かたより)

単糸撚り(たんしより)


②2本の糸を片撚りした場合の呼び方

2本片(にほんかた)

2本合撚(にほんごうねん)

2本引き揃え(にほんひきそろえ)


③2本の糸を諸撚りした場合の呼び方

双糸(そうし)

二子(ふたこ)

二子諸(にこもろ)

2本諸(にほんもろ)


②と③において、3本以上になった場合には、2を3なり4なりに変えてください。

双糸、二子、二子諸の場合、3本になったら

三双(さんそう)

三子(みこ、みっこ)

三子諸(みこもろ)

という呼び方になります。


と、ここまで書いて今更なのですが、これら以外にも呼び方はあると思いますし、これらの呼び方はどこに行っても通じる万能なものではありません。

私も糸屋として地域も用途も広範囲に渡って経験を積んできたと自負しておりますが、撚糸の種類に限らず、地域が変われば、用途が変われば、「同じ言葉なのに、意味するものが違う」ということが度々ありました。

上に書いた中で怪しいのは「2本合撚」と「2本引き揃え」です。

「2本合撚」は「双糸」と同じと認識されている方々がいらっしゃいます。そして、「2本引き揃え」は「撚りを入れずに2本揃えた(合わせた)だけ」としている方々もおられます。

そのような時、私は自分が間違っているとも、その方々が間違っているとも思いません。ただ、繊維業界全体として共通化された定義付けがなされていない、だけです。

糸というのはお洋服などの身近で目に見えるものだけでなく、自動車のタイヤや人工腎臓にまで使われている媒体です。それだけ広い世界全体で共通語を後から作ることなど到底無理な話で、先程申しました程度の言葉の認識の違いは、ある種の「方言」に過ぎぬとご理解ください。

そのような訳で、私は初めてお会いする方と撚糸の打ち合わせをする際には、その方がどのような呼び方をお使いになるのか、話をしながら確認しています。

ちなみに私の場合、「撚りを入れずに2本揃えただけの糸」は、「2本合糸(にほんごうし)」と呼ぶことにしています。


さて、この「糸の辞典」は元々私の個人的なインスタから始まったものです。そこではミシン糸や刺繍糸をお使いになっているフォロワー様から「使っている糸が絡まってしまう」というお悩みや疑問をいただくことがありました。

今回までで、ようやくその説明をするために必要な予備知識が整いました。

絡まる原因は「トルク」と呼ばれている「撚りが戻ろうとする力」なのですが、それについては次回で説明しております。


余談ですが、別れた二人が復縁することを「よりを戻す」と言いますが、この「より」とは「撚り(縒り)」のことです。

「元に戻す」ということなのでしょうが、2本合わせた糸の縒りを戻してしまえば2つは離れてしまうので、残念ながら辻褄が合いません。

一方、「腕によりを掛ける」の「より」も「撚り(縒り)」のこと。糸も撚りを掛ければ強くて力のある糸になりますので納得です。