撚糸とは糸をひねる、糸をねじることです。
しかし、それですべての撚糸の説明が付くわけではありません。
糸が輪を描いているループ糸などの意匠撚糸(ファンシーヤーン)、ゴム糸やポリウレタン糸を芯にしてその周りに他の素材を巻きつけるカバーリング糸、ストレートな糸に膨らみと伸縮を与える仮撚糸(ウーリー糸)など、撚糸でありながらも冒頭の説明ではあまりに不十分すぎる撚糸がいくつも存在します。
しかし、これら特殊な撚糸は別の回で説明することにして、まずは一般的な撚糸に限って解説していきます。
そもそも撚糸はなぜ必要なのでしょうか?
私は大きく分けて3つに分類できると考えています。
① 糸にするための撚糸
② 糸を使いやすくするための撚糸
③ 糸に個性を出すための撚糸
①糸にするための撚糸
これは糸にするために入れざるを得ない撚糸です。
短繊維糸の場合、ワタの状態(繊維束)を引き伸ばして糸にしていくわけですが、ただ引き伸ばすだけでは繊維同士の交絡(こうらく)が弱くて抜けてしまいますので、撚りを入れながら引き伸ばします。紡績において「粗紡(そぼう)」、その次の「精紡(せいぼう)」と呼ばれる工程で付加される撚糸です。
※ 「交絡」とは繊維同士の「絡み合い」です。
また長繊維糸の場合、化学繊維であればマルチフィラメントは紡糸口から何本もの長繊維が同時に出てきますが、シルクの場合には約3dしかない長繊維(参考として髪の毛は約50d)を何本か集束しなければ糸として使える太さになりません。蚕の繭から糸を取る製糸においては「繰糸(そうし)」と呼ばれる工程で付加される撚糸です。
これらは、糸加工としての撚糸ではなく、紡績や製糸の工程において付帯しているに過ぎませんが、撚ることの役割としては欠かせない一つです。
②糸を使いやすくするための撚糸
世の中に糸を使う用途は数多とあり、紡績工場で紡績された糸のまま、化学繊維メーカーで紡糸された糸のままでは使えない用途がたくさんあります。
そのままの糸を使ったのでは、強い張力に耐えられず抜けてしまう(切れてしまう)、強い摩擦が加わるので毛羽立ってしまう、機械の特性や作りたいものに適った太さの糸がない、そのような場合に撚糸で解決します。
短繊維糸なら撚糸を入れれば繊維間の隙間が少なくなり密度が増しますので、繊維同士がより強く交絡して、引っ張っても抜けにくくなりますし、毛羽落ちが少なく、毛玉も出来にくくなります。
長繊維糸なら撚糸を入れれば長繊維同士が密に集束しますから、糸が緩んでいる状態でも長繊維がバラけることなく、製造工程内や作業中に引っ掛かって毛羽を生んでしまうリスクを減らすことが出来ます。
化学繊維メーカーで生産していないような太い糸が欲しい時は、必要な太さになる本数まで撚り合わせてしまえば良いわけです。
③糸に個性を出すための撚糸
糸に個性を出すということは、その糸を使った製品に個性を出すということです。
どんなに柔らかい素材でも、強い撚りを入れれば、強く絞った雑巾のように硬くなり、ぬめりがなくなりシャリ感が出て、肌あたりがサラサラとした涼感が出せますし、糸が折れることに反発するのでシワが付きにくくなります。
また強く撚りを入れた糸は繊維の密度が増えて重くなりますから、それを使った生地はパタパタせず、ゆったりとしなやかに波を打つ「ドレープ感」、洋服にした時のシルエットが広がらずに体の線に合わせて落ちる「落ち感」を生みます。
もっと単純な例としては、二つの素材を撚り合わせれば、単一の素材にはない個性や機能を出せることは言うまでもありません。
糸はモノを作るための材料ですから、モノを作りやすくあることが大切です。②はそれを支える利便性としての撚糸の役割でした。
しかし、ただひねるだけの撚糸であっても役割はそのためだけでなく、素材に、製品に、新しい個性を付与してクリエイティビティを支えていると言える存在です。