これまで「原料としての糸」と前置きした上で4種類の番手を説明してきたわけですが、世の中にはまだまだ糸の太さを表す単位がございます。
ミシン糸は「♯」や「番」で表記されていますし、たこ糸や釣り糸は「号」が使われています。
繊維業界においても、「原料」や「糸」という言葉に明確な定義があるわけではなく、私にとっても感覚でしかないのですが、ミシン糸やたこ糸は糸と名が付いていても「原料」ではなく、特定の用途に向けて作られた「製品」という認識です。あくまでも私にとって、ですが。
さておき、簡単に説明します。
まずミシン糸では3本を束ねて撚ってあることが前提です。そして主として使われる、柔らかくて生地なじみの良いスパン糸ならば♯60(60番)は綿番手60sが3本撚り合わされており、♯30(30番)は綿番手30sが3本撚り合わされています。
但し、例外的なものとして♯90。これは90sの3本撚りではなく、60sの2本撚りになっています。
複数本を撚り合わせた糸の場合、綿番手のように太いほど番手が小さくなる恒重式ならば、1本当たりの番手を本数で割ると、撚り上がりの番手になります。
90s ÷ 3本 = 30s
60s ÷ 2本 = 30s
この二つは撚り上がりの結果としては同じ太さになるわけです。綿紡績において90sという太さは作れない訳ではないのですが、慣習的に生産・流通していない番手です。60sより細いのは80s、それより細いのは100sになるのが通常。ですからミシン糸の♯90は、60sを2本にすることで代用しています。
正直に申し上げて、私はミシン糸については経験が乏しいため、この程度の基本しか説明できません。しかし、ミシン糸の世界では♯8が「10s×4本」になっていて「8s×3本」とはいささか異なる太さだったり、スパン糸とフィラメント糸で同じ表記にも関わらず太さが近似値でさえない場合もあり、糸商としても不思議に思うことがいくつかあります。
これらについては申し訳ございませんが、私も今後勉強していきたいと思います。
たこ糸もミシン糸と同じく3本撚りが前提です。
こちらはミシン糸よりとてもわかりやすく、使う元糸も綿番手20sのみです。
例えば3号なら、まず20sを3本撚り合わせてから、それを更に3本撚り合わせます。20s×3本×3本ということで、20sが9本分の太さになります。
8号なら、20s×8本×3本(20sが24本)。
10号なら、20s×10本×3本(20sが30本)。
20号なら、20s×20本×3本(20sが60本)。
ちなみにたこ糸は「凧糸」ではなく「多子糸」が正解だと思います。
この場合の「子」は「本」と同じ意味と捉えてください。
昔から2本撚り合わせた糸を「ニ子(ふたこ)」、3本撚り合わせた糸を「三子(みこ、みっこ)」と呼んでいます。こうした撚糸についての詳しい説明は別の回で説明しています。
ところで、ミシン糸もたこ糸もなぜ2本ではなく、わざわざ3本にしているのでしょうか?
世の中の撚糸は1本だけで撚っているもの、あるいは2本を撚り合わせているものが主流です。
撚糸では本数が増えれば増えるほど生産効率は下がります。また本数を増やせば増やすほど細い糸を使うことになるわけですが、基本的に糸は細いものほど重量当たりの値段が高くなりますからコストは上がります。(その分、長さは長くなりますが)
ミシン糸もたこ糸も古くからあるものなので、その理由はいくつもあると思うのですが、私が最も妥当性を感じる理由は「2本よりも3本で撚糸した方が、糸の断面が円形に近くなるから」です。
多角形になるほど円形に近付くのと同じ理屈。そして円形に近付くほど、ミシン糸なら通過する針穴に対しても、貫通する生地に対しても抵抗が減って、その糸が切れるリスクも生地に与えるダメージも軽減します。
このあたりのことも、別の回で説明しています。
最後に釣り糸に使われるテグスです。
テグスは天蚕糸(てんぐす)。元々は蚕の糸、シルクです。古くは尺貫法を用いた恒長法で「厘」や「毛」を単位にしていましたが、化学繊維で代用されるようになると比重の違いから素材によって直径が変わってしまいますので、東洋レーヨン(現在の東レ)が「1号=0.165mm」と直径を規格化して、他社もそれに倣うようになりました。
本来、太さというのは断面積(円形なら直径)と捉えるべきだと思うので、テグスのように直径の違いをシビアに求められる用途においては当然のことだと思います。
番外としたため1回でまとめた結果、説明が長くなってしまいまして申し訳ございません。