前々回のデシテックスとデニール、前回の綿番手、麻番手に続いて、今回は毛番手です。
毛番手も綿番手と同じ恒重式ですが、毛番手はメートル番手とも呼ばれ、ポンド・ヤード法ではなく、メートル法を用います。
1gで1mなら1番、1gで10mあれば10番です。恒重式ですから、番手が大きいほど、その糸は細いということになります。
毛番手では「1gで9000m」なら9000番。
「デシテックスとデニール」の回をお読みになった方は、何だか既視感があるかもしれません。
デニールは「9000mで1g」なら1d。
そんなわけで「毛番手9000番とデニール1dは同じ」になります。
例えば重さを一気に重くして「1gで1m」の場合、「9000mは9000g」ですから、毛番手なら1番、デニールなら9000d。
毛番手1番 = 9000d
毛番手9000番 = 1d
このように毛番手とデニールはまったく別物に見えて、実は強い相関性を持っています。
それを踏まえて「デシテックスとデニール」の回で添付した早見表を見ていただくと、同じ太さの場合、デニールと毛番手の数字を掛け算すると、すべて9000になることがわかります。
よって「綿番手・麻番手」の回に添付した計算式にある通り、9000をデニールで割れば毛番手、9000を毛番手で割ればデニール、になるわけです。
毛番手(メートル番手)の記号は「nm」です。
これは綿番手や麻番手と違って、私にも理由ははっきりしています。
メートル法が生まれた国フランスの言葉で「番号」は”numéro”、「メートル法の」は”métrique”。”numéro métrique”で「nm」です。
ちなみにデニール(denier)もやはり、元はフランス語です。
今回はこれまでの中でも、最も実用性の乏しい内容になりました。番手同士の相関性や、単位の語源など、糸に携わる私でさえ使うことのない知識です。
しかし、この「糸の辞典」は元々から教本にするつもりはなく、出来るだけ多くの方々に糸に興味を持っていただくためを趣旨と考えておりますので、教本には必ず載っていることでも私が意味も面白みも感じないことは省き、一方で教本に載せるほど大したことではなくても私が面白いと思ったことは書いていきますので、その旨ご理解ください。
最後に、少しだけ実用的なことを。
私どものような卸売の糸商は、手芸店さんのように糸を長さ単位では販売しておらず、すべてkgやポンドといった重量単位で販売しております。
しかし私どものお客様は、その糸を使って織物でも紐でもレースでも、長さでご商売をされている方がほとんどです。そのためお客様がご自身で作ろうとなさっているものに、どれくらいの糸が必要なのかを計算するため、「この糸は1kg当たり何メートル?」という質問をいただくことがあります。
その場合、毛番手は1g当たりの長さなので1000をかければいいだけですが、綿番手と麻番手の場合にはポンドをkgに、ヤードをmに直さなくてはならないので、一度毛番手に直してから長さ(m)を出すのが早いと思います。
下のメモはその際の考え方を表したものになります。